Kジェトロニツクの概要

 機械式の初期タイプは,ジーゼル・エンジンに使用の噴射ポンプ式で,エンジン回転数に応じてプランジャで燃料を供給する方式であった(通称メカ・ポンプといわれ,初期のポルシェ911やベンツ,BMW2002tiiが採用)。この複雑な機構と高価な噴射ポンプ式から,安価で高性能タイプのフューエル(燃料)デストリビュータ方式が開発され,現在にいたっている。この機械式燃料噴射装置をKジェトロニツクといっているが,本来この"K"はドイツ語で"連続"を意味する頭文字で,燃料は吸入空気量に応じてインジェクタから連続噴射される(英語ではCIS=コンティニュアス・インジェクション・システム)という。
 電子式との相違点は,基本空燃比の制御方法を機械的に行なっているか電気的に行なっているかである。機械式はエアフロー・メータと燃料デストリビュータで空燃比を制御し,電子式のように電気的に作動するセンサやコンピュータを使用せず,またインジェクタも電子式のような燃料の流量を制御する計量磯能はなく連続噴射する。
 ジーゼル・エンジンと比較すると,噴射ノズルの開弁圧がジーゼルでは100〜180kg/cuに対してKジェトロニックのインジェクタの開弁庄が約2.6-3.7kg/cuと低く,またジーゼルのように燃焼室内に直接燃料を噴射するのではなく吸気ポート内に噴射する。したがって,イジェクタ自体が燃焼ガスに直接さらされないため強度や耐熱性も必要とせず,耐久性がある。
 ジーゼルの噴射ポンプに相当する燃料デストリビュータは,エンジンに駆動されることがないため,噴射タイミングの計測やタイマも必要なく,また燃料も高圧でないため,構造や保守も簡単である。
 以上のように機械式は原理的にもわかりやすく信頼性もあり,メインテナンスも容易である面では電子式より勝り,いかにもドイツ人が考えた独創的なメカニズムといえる。
 Kジェトロニックは,欧州車の代表的な車であるBMW/ベンツ/アウディ/ボルポ/サーブ/ポルシェ/フオルクスワーゲン/プジョーなどに用いられている。

燃料の流れと燃圧の種類

〔第1図 Kジェトロニツクの基本システム図〕
 Kジェトロニックの基本システム図を第1図に示す。燃料系統は燃料タンクから燃料デストリビュータまでは,電子制御式と構造的に大差はなく,部品名称が異なる程度である。ただ燃圧は電子式よりも高く,流れる場所により各種の燃圧が発生し,それぞれ重要な働きをしている。
1. ライン・プレッシャ(ロア・チャンバ圧〉
 燃料タンク内のガソリンは燃料ポンプで吸引されてポンプ内で加圧され4.5〜5.3kg/cuと高圧になり,フユーエル(燃料)アキュムレータ(蓄圧器)で脈動を吸収し,燃料フィルタでゴミや異物および水分などを除去し,燃料デストリビュータ内のロア・チャンバにいく。
ここまでをライン・プレッシャといい,電子制御式の燃圧に相当する。
2. アツバー・チヤンバ圧
 次にロア・チヤンバのガソリンは,燃料デストリビュータ内のコントロール・プランジャで流量を制限され,アツバー・チャンバに入る。
するとアッバー・チャンバ圧が高くなり,ロア・チャンバとの圧力差が0.1kg/cu以下になると,燃料が噴射される。
3. インジェクタ・プレッシャ
 前述のアッバー・チャンバでコントロールされた燃料はインジェクタから噴射されるが,このときのインジェクタの開弁圧をインジェククタ・プレッシヤ(2.6〜3.7kg/cu)という。インジェクタは各気筒ごとに吸気ポートに向けて取り付けられ,気化器のように混合気てはなく,燃料だけを噴射する。
 なお,寒冷時の始動を容易にするために,コールドスタート・ハルブがあり,気筒数に関係なく,別の系統から燃料が噴射される(水温35度以下で作動)。
4. コントロール・プレッシャ
 また,ロア・チャンバからオリフィスを通過する際に減圧されて,コントロール・プランジャの頂部に圧力が加わる。これをコントロール・プレッシヤといい0・5〜37kg/cuの燃圧がかかり,ウォームアップ・レギュレータとの関係で混合比(燃料の流れ)をコントロールするという重要な働きをする。
 たとえば寒冷時には,ウォームアップ・レギュレータ内部のパイメタルの作用で,バルブ・スプリングは下方に押され上部のダイアフラム・バルブが開き,コントロール・プレッシャ回路とリターン回路が導通し,コントロール・プランジャの頂部に作用するコントロール・プレッシャが減圧され,同一吸入空気量に対してさらにプランジャの移動量が大きくなり,混合気が週慮となる(第2図→ 基本型ウォームアップ・レギュレータ)。
 なお,暖機時の補正として前述のウォームアッブ・レギュレータのほかに,燃圧とは関係ないがエア・レギュレータ(バイメタル式)があり,補助空気を導入して暖機運転の安定化を図っている。
5. レスト・プレッシャ
 燃料デストリビュータ内のプレッシヤ・レギュレータはライン圧を保ち,規定圧以上になると燃料タンクにもどす役目と燃料ポンプが停止した際の残圧を保持する。残圧保持はエンジンの再始動を容易にするためと夏場のペーパロック現象を防止し,プレッシヤ・レギュレータのほか燃料ポンプのチェック・バルブと燃料アキュムレータのダイアフラムの3箇所で行なわれる。この残圧をレスト・プレッシャといい,17〜2.4kg/cuに保たれている。
 以上の燃圧のなかで,特にライン・プレッシャとコントロール・プレッシャおよびレスト・プレッシャが,作動上で重要である。
空燃比コントロール
 Eジェトロニックの心臓部である空燃比コントロール(混合気の調整)は,エアフロー・センサと燃料デストリビュータで行ない,エアフロー・センサで空気量を計量し,レバーを介して遊園地のシーソーのように燃料デストリビュータ内のコントロール・プランジャを動かして,燃料流量を調整している(第3図 エアフロー・センサの構造と基本動作)。

<空気量の計測>
 まず空気の計測はエアフロー・センサとエア・ベンチュリで行ない,エア・ベンチェリ内のセンサ・プレートが上下動して,吸入空気量を計量する。
<燃料流量の計測>
 燃料流量は次のように規制される。燃料デストリビュータの中央に,メータリング・スリット付きの中空シリンダとそのなかを上下するコントロール・プランジャで構成され,同プランジャはセンサ・プレートの上下運動と連動する。中空シリンダには気筒数分のスリットがあり,コントロール・プランジャが上下してこのスリットの開口面積(燃料の通過面積) を変化させ,機械的に燃料流量を計量する。計量はコントロール・プランジャのエッジで正確に調整し,ちょうどSU気化器のジェット・ニードルとノズルに似た役目をする(第4図)。
 コントロール・プランジャが上下してスリットの開口面積が変化したぶんだけメータリング・スリットを通過した燃料は,ロア・チャンバからアッバー・チャンバ内に流れ込む。またコントロール・プランジャの下方はセンサ・プレートの上下運動の力を受け,上方はコントロール・プレッシャ(05〜37kg/cu)を受けて,同プレッシャとウォームアッブ・レギュレータで調整してコントロール・プランシヤの上下運動を抑え,ガソリンの流量を変えている。 
〔↑第4図 中空シリンダとコントロール・プラン
ジャ。丸のなかがメータリング・スリット(0.2mm幅)
で,エンジンの気筒数だけある。矢印のエッジで流
量が調整される〕







 つまり,吸入空気量の多いときはセンサ・プレートが上に持ち上げられ,アイドル時や低速時に下げられるようになっている。これで燃料デストリビュータのコントロール・プランジャを上下移動させ,インジェクタからの噴射量を変化させている。すなわち吸入空気量に応じた量だけの燃料を,吸気マニホールドに供給している(第5図 空気量と燃料噴射量の関係)。

<チャンバの作動>
 またアッバー・チャンバ内には,スチーム・ダイアフラムとの間にデファレンシャル・プレッシャバルブ(以下デファレンシヤル・バルブ)があり,燃料が通過する隙間がある。
コントロール・プランジャで計量された燃料がアッバー・チャンバ内に入り,デフアレンシャル・バルブで燃料の流量と燃圧の最終チェックを行ない,インジェクタに送られる。
 定速走行時はロア・チャンバはライン・プレッシャと同圧である(たとえば4.8kg/cu)。
アッパー・チャンバ内に流れた燃料はスリット通過後減圧されるが,アッパー・チヤンバのスプリング(0.1kg/cuの圧力をもっている)で滅圧分を補正している。
 したがって燃圧+スプリング圧で4.8kg/cuとなり,ロア・チャンバ圧とつり合ってダイアフラムは水平位置を保ち,デファレンシャル・バルブから送られる。
加速時は燃料の流量が増加してダイアフラムが下方へふくらみ,デフアレンシャル・バルブが大きく開いて流量が多くなり,加速ポンプと同じ働きをする(第6図 チャンバの作動)。

<燃料デストリビュータのチャンバは“貯水漕”なのだ>
 前述の空燃比コントロール関係をさらにわかりやすく述べると,次のようになる。
 燃料デストリピュータ(分配器)というとその形状や名称から点火装置のデストリビュータを想像して,内部でロータが回転し燃料を分配しているかのように考えがちだが,第7図に示すようにエンジンの気筒数分だけのチャンバ(室)と中央に燃料を計量するコントロール・プランジャの組合せだけである。
 燃料デストリピュータのチャンバはスチール・ダイアフラムで上下に分割されているが,このチャンバを水道でいう貯水槽と考えればわかりやすい。各戸に送水した場合(各気筒に噴射する),貯水槽の水(ガソリン)は減少するが,貯水池(燃料ポンプ)から水が一定の圧力で送られているためすぐに減少分だけ補充され,常に貯水槽は一定の状態に
保たれ,急激な変化に対応している。
〔←第7図 燃料デストリビュータの構造〕
 そして水道の蛇口のバルブの働きをする流量調整をコントロール・プランジャが受け持ち,同プランジャにより計量された燃料は,アッバー・チャンバという貯水槽に入る。
アッバー・チャンバとロア・チャンバの間にスチール・ダイアフラムがあり,これが圧力変化に対応して加速ポンプの働きをして,各インジェクタに送られるわけである。
 この発想は,水道水の供給,すなわち水量を調整しても圧力変化が起きない原理を利用したといわれている。
燃料デストリビュータ
 基本タイプの場合は,アルミ製のミックスチャコントロール・ボデーの上に,黒い鋳鉄製のEジェトロニック本体が3本の長いネジで取り付けられている。
マイナス・ドライバを用いて,この3本のネジをゆるめると,ミックスチャコントロール・ボデーを取りはずすことができる。
ただし,各インジェクタにいっているパイプ類および燃料ポンプからのホースや,ウォームアップ・レギュレータまでのパイプなども,取りはずす必要があることを忘れてはならない(第8図 新型燃料デストリビュータの外観)。

メインテナンスの注意
 まずコントロール・プランジャの上下移動が,スムーズに作動しているかどうかである。
このタイプでは水分は絶対禁物である。
第9図にその現物を示す。
このメータリング・スリット付きバレル内を,コントロール・プランジャが上下して,Cの丸い穴がロア・チャンバ,Aのスリットがアッパー・チヤンバ内につながっている。
右図のように,プランジャが0.2mmのスリットの幅を上下して流量を決めており,この非常に小さい幅により燃圧の変動を防いでいる。
 最も重要で精密な部分であり,この内部の摺動がスムーズに動かなくなると,トラブルの原因となる。
特にプランジャがスティックを起こして,ある位置のまま固着して上下移動ができなくなると,センサ・プレートが実際に必要としている以上の空気量を感知する結果となって,混合気が農くなってしまう。
そのため,黒煙を排出したり始動不良となったりする場合が多い。
特に長期間自動車を使用せずに放置した場合に発生する現象でもある。


〔↑第9図 メータリングスリット付きバレルとコントロール・ピストンー1:燃料デストリビュータ・バレル,2:メータリング・スリット,3:ピストンコントロール・エッジ,4:インレット・ポート,5:コントロール・ピストン〕
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